お料理はなんのきまりもないのだから、とらわれないことだ。それから自信をもってまな板に向かうことだ。こんな材料ではおいしいものがつくれる筈はないと思う前に、これだけのものでどんなおいしいものをつくってみせようかと考えるほうが幸福だと思う。 ―「巴里の空の下オムレツの匂いは流れる」(117)より
前にmarieちゃんが紹介してたのを読んで以来、読みたいなと思ってた本。
ちょうどジュンク堂に行った時に見つけたので
姉妹本の「東京の空の下オムレツのにおいは流れる」とともにお買い上げ。
まずタイトルが素敵だよね。おいしそう♡
(中でこのタイトルはシャンソンの歌のタイトルをもじってつけたものだ、ってあるけど)
シャンソン歌手の石井好子さんの食べることがすき、作ることがすき、という
その想いが文章の端々から滲み出ていて
なんとも読んでいて幸福な気持ちになってしまうエッセイ本。
食べ物の描写がすごくうまくて、その香りや風味なんかも情景に浮かんでしまう。
お仕事柄世界各国を旅されてるから、お料理も多国籍。
パリでマダムが作ってくれたオムレツだったり
イギリスの紅茶の話だったり
スペインのヴァレンシア風のごはん(パエリア)だったり。
お料理と旅エッセイがごっちゃになった感じでどちらも好きな私には嬉しい。
食べ物というのはその国の文化の一部。
この本では、それぞれの国の食べ物の話をしながら、その国の文化も垣間見れる。
そこがまた私にはたまらない。
何気ない口調で書いてあるけど、この人は随分観察力の鋭い人だったんだろうな。
ありありとその様子が思い浮かべられるように描写するのって案外難しいもの。
そして驚いたのが1963年の「暮らしの手帖」から単行本になっているということ。
50年近くも前に書かれているというのに、まったくそれを感じさせないというのはすごい!
言われなければきっと気づかないかもしれない。
それほど時代を感じさせない(いい意味で)なんて素晴らしい。
時代が変わってもいいものは、いい。とはいうけれど、まさにこの本はそれを証明してる。
いくつかかいつまんでお話しましょう。
*オムレツのはなし。
私も石井さん同様、昔から卵料理は大好き。
確かにオムレツはできたてを食べるのが一番美味しい。
それに比べてお弁当の卵焼きってのは、さめても美味しいのだから優れものよね。
本書で、アメリカのチーズオムレツが美味しくない話をされてたけど、まさにその通り。
卵好きな私としては朝ご飯かブランチで外食するとついついオムレツを頼むんだけど
アメリカに住んでる間は、それで何度も失敗したものです。
まずチーズを入れすぎてて卵本来の味が消されちゃってるのが悲しいところ。
色んなところで食べるけど、アメリカで「これはっ!」と思う卵料理に出会ったことはあまりない。
"オムレツの作り方を知らないのか、手間をかける時間がおしいのか、どちらかは知らないけれど、やはり親切心がたりないのと、食べものに愛情を感じていないせいだとおもう。"―「巴里の空の下オムレツのにおいは流れる」(11)よりと、あるんだけどこれはあながちあたってるのよね。
アメリカ人が食べ物にたいしてあまり愛情を持っていないという話は
他の章でも触れられてたけど、私もそれは長いことアメリカに住んでいて感じたこと。
あくまでアメリカ人にとって"食"とは空腹を満たすための"食"のような気がするんだよね。
もちろん食べることが好きな人、作ることが好きな人もいるし、美味しいものもたくさんある。
それでもアメリカという国を大きく括ってしまってみたときに
石井さんの言葉を借りれば"食べものに愛情を感じていない"というのは一理あると思う。
食べることに対する執着心があまりないように思う。
*ご馳走することについて
石井さんの本を読んでると、彼女は本当に人に食べさせるのが好きなんだな、と思う。私も人を呼んで手料理を食べさせるっていうのは結構好きで
最近は2週間に1回くらいの割合で、テーマをつけて料理を作って招いたりしてる。
で、石井さんは旦那か誰かが急に誰かを連れてきた時、
ご馳走しようと思わなければいい、と言ってる。
まさにその通りよね。
でも、せっかくだから……とついついあれこれしたくなっちゃうってのもあるんだけど。
*じゃがいものはなし。
戦時と戦時後に石井さんがよく食べていたというじゃがいも。さつまいもよりじゃがいもが好きだという彼女。私もどっちかというとじゃがいも派。
ベークドポテトも、マッシュポテトも、ハッシュブラウンも、コロッケもポテトサラダも大好き。
そしてそのじゃがいもの話の締めが"こんなに、じゃがいも料理に目がない私だけど、あまりじゃがいもばかり食べるとスタイルまでじゃがいも型になりそうだ"(177)とあってなんだか可愛い(笑)
*ロールキャベツのはなし。
私もロールキャベツってどこの料理なんだろう、と思ったことがあった。
アメリカで今まで見たことなかったのに、数年前のクリスマス
旦那の祖父母の家にいったとき、出てきた料理がロールキャベツだった。
そのロールキャベツは煮込んでなくて、オーブンで調理してあったけど
見た目はまさにロールキャベツ。味もそうだった。
私はてっきりロールキャベツはどこからか伝わってきて勝手に日本人が
手を加えていまのロールキャベツというスタイルになったものだと思ってたけど
石井さんの本を読む限り、ドイツでもスウェーデンでもあるんだね。
"上にかけたチーズの粉がこんがりと狐色にやけて、チーズのこげるにおいと、ホワイトソースの甘い香りが、部屋じゅうにただよう。ぐつぐつぐつぐつ、まだ皿の中で煮立っているグラタンを、食卓に持ってゆく。そして、大きなおさじで一人一人のお皿にとりわける。とろっとしたホワイトソースに包まれて、ロールキャベツは、ほかほか湯気を立てている。ここまで手をかけると、ロールキャベツも、立派な一品になるのだった。"―「東京の空の下オムレツの匂いは流れる」(10)よりこれを読んで、私のロールキャベツ食べたい熱に火がついたのでさっそく作ってみた。
石井さんが書いていたようにホワイトソースの中にロールキャベツを煮た残りのスープを
加えたら本当に味が濃くなってとても美味しい。
ことことじっくり煮込んだので、とろっと口の中でとろける。
やっぱり時間をかけるとそれだけ美味しくなる。
そんなわけで他にも色々と食欲や料理欲をそそられる話が
たくさんあって、なんとも素敵な本でした。
marieちゃん、紹介ありがとね♡
私もこちらの本、大好きですー!!
返信削除そうそう、いい意味で時代を感じさせないですよね。石井さんのお料理に対する深い愛情を感じます。文章のテンポも心地よくて幸せな気分になりますよね。おなかが空いてるときに読むと大変です。石井さんの「パリ仕込みのお料理ノート」もいいですよ。あと「卵を三つ、バタをひとさじ」(だったかな?)も読みたいです。
>cameliaさん
返信削除あ、cameliaさんも好きですか。いいですよね。
確かにおいしいものがいっぱいでてくるのでお腹がすいてる時に読むとお腹すきすぎちゃって困りますよね。
「パリ仕込みのお料理ノート」なんてのもあるんですね。
今度みてみます。いま、「いつも異国の空の下」を読んでます。
あっ、読んだのねー♥♥わたしもこの本がすっかり気に入ってしまって、それ以来石井好子さんはかなり気になる人の一人。お料理大好きで、食べることも大好きなamuちゃんなら、きっと気に入ってくれると思ってたよ!
返信削除またamuちゃんオススメの本も、教えてね★
>marieちゃん
返信削除うん、読んだよ!紹介ありがとう。
すごく面白かった!
買って以来ちょこちょことたまにぱらっと開いて読み返したりしてるよ。
でもお腹すいてる時にはなるだけ読まないようにしてる。笑