3.07.2012

ツリーハウス/角田光代

闘うことも逃げることもせず、やすやすと時代にのみこまれんなと祖母は言ったのではなかったか。祖母たちの生きた時代のように戦争が今あるわけではない。赤紙がくるわけではない、父たちが生きた時代のように上がり調子なわけではない、浮ついた希望が満ち満ちているわけではない、今は平和で平坦で、それこそ先が見通せると錯覚しそうなほど平和で不気味に退屈で、でもそんな時代に飲み込まれるなと。(457)

角田光代さん、またまたなんとも読み応えのある本を書いたな!というのが第一印象。
結構分厚いけど読みながら、なんだかその時代を生きてるような気分になった。
正直どの主人公にもあまり共感はできない。苛立ちさえ覚えることもあった。
それでも読み始めると、なかなか止まらない。

翡翠飯店という小さな中華料理屋の三世代を描いた作品で祖父の死をきっかけに
孫の良嗣は何の干渉もしない自分の"根無し"家族のルーツに興味を覚える。
そこから、現代、戦時、経済成長期の頃と藤代家とともに物語りは時代を行き来する。

この孫が自分の家族のルーツ探しに出た時に、
もしかしたらものすごい過去があるのかもしれない、と何処かミステリー小説気分で読み始めた。
でも正直あまり浮き沈みもない。淡々と描かれる藤代家の三世代の様子。
それなのに、なんだかわからないけれど目が離せない。
読んでいくうちにまさにこの家族がこうなった歴史というのが見えてくるから面白い。
血はやはり争えないな、と。

祖父母の時代、父母が生きた時代、そして現代。
時代はまるで違う。
それなのに彼らの生きてきた道を辿ると、
まるで何も変わってなかったんじゃないかとさえ思ってしまう。
生きて、子が生まれ、そこから繋がっていく。
たとえ"ただ生きてきた"だけに見えても、それさえしないと歴史はできていかない。

根無し草でも、ツリーハウスのように多少グラグラしても
それでもそこに確かにある"家族"というもの。


2 件のコメント:

  1. これ、面白そうだと思ってたんだよね〜!
    amuちゃん読んだんや★
    わたしも読んでみようかな??
    レビューだけみると、山あり谷あり、ハラハラドキドキな展開てはなさそうだけど、世代とか家族を考えさせられそうね*興味あるなぁ…♥

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  2. >marieちゃん

    うん、これなかなか面白かったよ。
    そうなの。はらはらドキドキではないからそういうのを期待して読むと、期待はずれになってしまうけれど、じっくりと見せていく感じがやっぱり角田さんはうまい!
    ますます彼女の作品から目が離せないと思ってしまった作品。
    ぜひぜひ読んでみて!

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